子どもを愛おしく思う~ Make Japan great again ~【第一部】辻井いつ子氏講演

子どもを愛おしく思う~ Make Japan great again ~

 
2020.2.15
ドーンセンター(大阪府立男女共同参画・青少年センター)
 

かつての知識集積型から大きく概念を覆し、次世代に対応できる教育の在り方が問われる昨今。
子どもの才能を引き出すために大切なのは、子育てに関わる人たち、特に一番関わりの深いお母さんの在り方かも知れない。

今回の特別講演会は、このような想いから実現し、会場には子育て中のお母さんやお父さん、子ども教育や社会人教育に関わる方、学生など、350名を超える方にお集まりいただきました。

 

第一部は、世界的ピアニストである辻井伸行さんを育んだお母様、辻井いつ子さんにご講演いただきました。

 

辻井さん1

 

伸行さんが生まれた時、光を感じることができない全盲であると告げられた辻井さん。悪い夢を見ているんじゃないか…と、なかなか現実を受け止められずにいたと仰います。

我が子がいつまでたっても目を開けることができないという現実。どうしたら良いのだろうと悩む日々を送る中、辻井さんを救ったこととは?

 

福沢美和さんとの出会い「花は見えないけれど、香りで楽しめるのよ」

 

多くの本を読んでみるも、なかなか参考になることに出会えずにいた辻井さんが、ある日、たまたま本屋さんで見かけた『フロックスはわたしの目――盲導犬と歩いた十二年』(福沢美和著)。

 

暗い苦労話などなく、障害があっても明るく生きている著者の姿に、伸行さんの好きなことを見つけて、自立した人になれるように育てていこう、という気持になったそうです。

 

その後、福沢さんと会う機会を得た時のこと。
花や空など美しいものを見たとき、「彼はそれを見ることができない」と思うと涙が出てしまうと話すと、福沢さんは「花は見えないけれど、香りで楽しめるのよ」と。

 

この言葉を聞いたとき、これまでいかに自分の物差しでしか物事をとらえていなかったか、痛感したのだとか。それからというもの、見えないことを気にするのではなく、言葉で伝え、触って感じて、一緒に楽しめればという思いで、様々な場所へ出かけたそうです。

 

 

「この子は演奏家の違いに気づく耳を持っている」

 

伸行さんの音楽の才能に気づいたのは、生後8か月のこと。CDをかけると機嫌がよく、毎日のようにかけている中で、伸行さんのお気に入りはショパン。とくに英雄ポロネーズが大好きで、テンポにあわせて全身でリズムをとりながらいかにも嬉しそうしていたそうです。

 

そのうちCDに傷がついて音が飛ぶようになり、お店で同じ曲のCDを買い、かけてみると伸行さんは不機嫌な様子。

「おんなじCDよ」と言っても、ぶすっとしている・・・必死で二枚のCDを比べ、ハッとされたそうです。「もしかしたら、息子はブーニンの演奏に反応していたのかもしれない。」

 

もう一度お店に行きブーニンのCDを買うと、案の定、息子は嬉しそうに反応したのです。

「この子は演奏家の違いに気づく耳を持っている」びっくりするような、嬉しい出来事だったと仰います。

 

辻井さん2

 

音楽を通じてコミュニケ―ションをとるようになっていったという辻井さん親子。伸行さんが、ピアノと出会うきっかけとは?

 

「何か趣味でもいいから好きなものを探してやりたい」

 

辻井さんは、ピアニストに育てようという気持ちは全くなかったそう。「おもちゃでもいいから楽器を与えたらいいかもしれない」

「何か趣味でもいいから好きなものを探してやりたい」という思いから、おもちゃのピアノを買ったのが最初だそうです。

辻井さんが教えることもなかったそうですが、おもちゃのピアノに興味を持ち、勝手にいじっていた伸行さん。

 

それは、2歳3か月の12月のこと。

辻井さんが、クリスマスが近いからとジングルベルを歌っていたところ、隣の部屋からジングルベルらしき曲が流れてきました。

 

それは、なんと伸行さんでした。

辻井さんの歌を耳で拾って、右手でメロディ、左手で伴奏をつけて弾いていたのだそうです。

「すごい。もう一回弾いて」と喜ぶ辻井さんの言葉に、嬉しそうに何度も弾いてくれたのだとか。

 

それまでの日記はいつも泣きごとばかり。

この日ばかりは「嬉しい、嬉しい」と、昔の自分に戻ったような気がしたと当時を振り返る辻井さんの言葉に、会場の多くの方が涙されていました。

 

それから、辻井さん親子の二人三脚の旅は続きます。辻井さんの我が子を信じるチカラ、そして、純粋に大好きなことに打ち込む伸行さんのチカラが、多くの出会いを招き、奇跡を生んでいきます。

 

 

「いつも自分を信じて、がんばってねと背中を押してくれる。ぜったい大丈夫だと思える。母のおかげだと思っています」

 

これは、ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールで優勝した時の、伸行さんの言葉。

 

講演の最後に、辻井さんは私たち受講者にこのような言葉を投げかけて下さいました。

 

息子には、人の可能性の素晴らしさを教えてもらいました。子どもは誰でも才能の種をもって、大きな可能性を持って生まれてくるのです。
たとえ前例がなくてもうちが前例になればい本人が好きなことに打ち込んでいるのですから、親は子供の可能性を信じるしかありません。

 

現在、息子は1年のうち9か月くらいは海外にいます。このように好きなことができて、これ以上幸せなことはないと思っています。彼がほんとうに好きなことを見つけたとき、私は親として、能力と可能性を信じて支えてきました。

 

子どもにとって、親は一番の応援団長なんです。子どもが何かの仕事につきたいと言ったら、ぜひ「あなたなら大丈夫」と言ってあげてください。この言葉がきっと大きな可能性を引き出してくれます。

 
我が子を、ただただ愛おしいと思う気持ち、そして、可能性を信じ共に成長すること。
辻井さんのお話から、最も大切にしたい、親としての役目を教えていただきました。
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